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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)101号 判決 1995年6月29日

東京都中央区日本橋小網町19番5号

原告

丸紅建設機械販売株式会社

同代表者代表取締役

尾地和男

東京都千代田区神田駿河台4丁目2番地8

原告

高砂熱学工業株式会社

同代表者代表取締役

石井勝

東京都千代田区大手町1丁目7番2号

原告

株式会社 東京ライニング

同代表者代表取締役

金井邦助

原告ら訴訟代理人

弁護士

石川幸吉

弁理士 佐々木功

同復代理人弁理士

小川秀宣

愛知県名古屋市南区三吉町4丁目73番地

被告

日本施設保全株式会社

同代表者代表取締役

伊藤晏弘

被告訴訟代理人

弁理士

伊藤研一

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

「特許庁が平成3年審判第15815号事件について、平成4年4月1日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は名称を「既設長尺管の内面塗装方法」とする登録第1183320号特許(以下「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の権利者であるところ、原告らは、平成3年8月8日、特許庁に対し、被告を被請求人として、本件特許の明細書につき平成1年審判第5273号審決により認められた訂正(以下「本件訂正」という。)につき訂正無効審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成3年審判第15815号事件として審理の上、平成4年4月1日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は同年4月30日、原告らに送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本件訂正の要旨

<1> 明細書において、次の箇所に記載されている「管」を「既設長尺管」と訂正する。

第1頁第3行(特公昭58-14826号公報((以下単に「公報」という。))第1頁第1欄第1行)、同頁第5行((2ヵ所))(公報同頁同欄第23行((2ヵ所)))、同頁第6行(公報同頁同欄第24行)、同頁第7行(公報同頁同欄第25行)、同頁第10行(公報同頁同欄第28行)、同頁第11行(公報同頁同欄第29行)、同頁第13行(公報同頁同欄第31行)、同頁第15行(公報同頁同欄第33行)、第2頁第15行(公報第1頁第2欄第16行)、第3頁第3行(公報同頁同第24行)、同頁第4行(公報同頁同欄第25行)、同頁第6行(公報同頁同欄第27行)、同頁第7行(公報同頁同欄第28行)、同頁第9行(公報同頁同欄第30行)、同頁第10行(公報同頁同欄第31行)、同頁第12行((左から14字目))(公報同頁同欄第33行((左から14字目)))、同頁第16行(公報同頁同欄第37行)、同頁第18行(公報第2頁第3欄第2行)、第4頁第2行(公報同頁同欄第6行)、同頁第6行(公報同頁同欄第10行)、同頁第18行(公報同頁同欄第22行)、第5頁第6行(公報同頁同欄第30行)、同頁第7行(公報同頁同欄第31行)、同頁第8行(公報同頁同欄第32行)、同頁第12行(公報同頁同欄第36行)、同頁第14行(公報第2頁第4欄第2行)、同頁第16行(公報同頁同欄第4行)、同頁第18行(公報同頁同欄第6行)、第6頁第2行(公報同頁同欄第10行)、同頁第4行(公報同頁同欄第12行)、同頁第6行(公報同頁同欄第14行)、同頁第12行(公報同頁同欄第20行)、同頁第15行(公報同頁同欄第23行)、第7頁第4行(公報同頁同欄第32行)

<2> 明細書において、次の箇所に記載されている「塗料」を「液状塗料」と訂正する。

第1頁第7行(公報第1頁第1欄第25行)、第3頁第5行(公報第1頁第2欄第26行)、同頁第14行(公報同頁同欄第35行)、同頁第15行(公報同頁同欄第36行)、同頁第17行(公報第2頁第3欄第1行)、同頁第19行(公報同頁同欄第3行)、同頁第20行(公報同頁同欄第4行)、第4頁第6行(公報同頁同欄第10行)、第5頁第13行(公報第2頁第4欄第1行)、同頁第15行(公報同頁同欄第3行)、第6頁第1行(公報同頁同欄第9行)、同頁第4行(公報同頁同欄第12行)、同頁第5行(公報同頁同欄第13行)、同頁第7行(公報同頁同欄第15行)、同頁第10行(公報同頁同欄第18行)、第7頁第5行(公報同頁同欄第33行)、同頁第6行(公報同頁同欄第34行)

<3> 明細書第1頁第8行~第9行(公報第1頁第1欄第25行~第27行)の「旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する管の内面塗装法」をいう記載を「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することを特徴とする既設長尺管の内面塗装法」に訂正する。

<4> 明細書第1頁第14行(公報第1頁第1欄第32行)の「ガス流が管の内面に」という記載を、「旋回ガス流が既設長尺管の内面に対し、」に訂正する。

<5> 明細書第1頁第18行~第2頁第11行(公報同頁同欄第36行~同頁第2欄第12行)の「本発明は管の内面塗装、とくに水道管、各種パイプラインのように埋設あるいは固定された管の内面塗装に関するものである。管の内面塗装には静電塗装等の方法が用いられるが、長尺管、固定管あるいは曲管部の内面に塗装することは非常に困難か、不可能であった。本発明の方法は、このような従来技術では困難または不可能とされていた管の内面塗装、とくに水道管や各種パイプラインのように固定された管の内面塗装を可能とするものであって、管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成することを特徴とするものである。」という記載を、「この発明は、水道管あるいはパイプライン等のように移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の内面塗装方法に関する。上記した水道管あるいはパイプライン等のように移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の塗装法としては、従来、例えばワイヤに液状塗料を含浸するパフを取付け、既設長尺管内にワイヤを挿通し、管の他端から飛出したワイヤを引張ることによりパフを管内にて引摺って塗装する方法(以下において、該塗装方法を機械的塗装方法という。)が一般に採用されている。しかし、上記した機械的塗装方法においては、既設長尺管が、例えば数100m以上のように極めて長い場合、該管内にワイヤを挿通させることが事実上不可能であり、既設長尺管の内面塗装ができなかった。また、既設長尺管が、例えば数10mのように短い場合においても、該既設長尺管が曲管部を有している場合には、ワイヤが曲管部に引掛って挿通することが困難であると共に、ワイヤを挿通できたとしても、該曲管部にパフが引掛って内面塗装できなかった。なお、本発明において既設長尺管とは特に何m以上と限定することはできないが、上記した機械的塗装方法では内面塗装ができなかった曲管部を有する管をも含むものである。また、例えば米国特許第3139704号に示すように、パイプラインの一端に取付けられたアダプタ内の絞りボールにより供給されたガスを高速流に形成すると共に、この高速流に液状塗料を供給してパイプライン内面を塗装する方法も一般に知られている。しかし、上記した高速流を使用した塗装方法にあっては、パイプライン内を流通するガスは、パイプライン中心部の流通速度が内周面側の流通速度に比べ、極めて高くなる傾向を有している。このような高速ガス流を使用して供給された液状塗料を内周面に吹き付けようとする場合、内面塗装に寄与する内周面側のガスの速度が低いため、内周面に対して液状塗料を効率的に吹付けることが出来ないと共に、吹き付けられた液状塗料をガス流の流れ方向に向かって押し延ばすことが出来ない問題を有している。この結果、パイプラインの始端部と終端部とでは、形成される塗膜の厚さが異なり、パイプライン内周面全体をほぼ均一な厚さにて塗装出来なかった。また、中心部のガス流の速度が高いため、多くの液状塗料が内面付着することなく、この中心部のガス流に乗って外部に排出されて無駄になる結果、液状塗料及びガスの消費効率が悪かった。更に、液状塗料自体、ある程度に質量を有していると共に、パイプラインの始端からある程度の距離に至ると、ガス流の速度が低下するため、該液状塗料の多くが自重落下して内周面の下側に留まる傾向を有している。この結果、ガスの速度が低くなる、例えばパイプラインの中間部以降においては、内周面の上側を塗装することができず、パイプラインの内周面全体をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することができなかった。本発明は、上記した従来の欠点を解決するために発明されたものであり、その目的とするところは、簡易な方法により既設長尺管の内周面を始端部から終端部にわたってほぼ均一な厚さの塗膜を形成して塗装することができると共に、液状塗料及び使用するガスの消費効率を向上することが可能な既設長尺管の内面塗装方法を提供することにある。このため、本発明は、移動不可能に埋設あるいは固定された既設長尺管の内面を塗装する方法であって、既設長尺管の内部にガスを供給して既設長尺管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、既設長尺管内に供給された液状塗料を、この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することを特徴とするものである。」に訂正する。

<6> 明細書第2頁第17行~第20行(公報第1頁第2欄第18行~21行)の「このような管は埋設されていたり、固定されているし、また、非常に長尺で曲管部も含まれているので、本発明の方法を適用することによって顕著な効果を上げることができる。」という記載を、「このような既設長尺管は埋設されたり、固定されているし、また、非常に長尺で曲管部も含まれており、従来の機械的塗装方法では内面塗装することが困難かあるいは不可能であるため本発明を適用することによって顕著な効果を上げることができる。」に訂正する。

<7> 明細書第3頁第12行左から10字目(公報第2頁第2欄第33行左から10字目)の「管」を「ガス供給管」に訂正する。

<8> 明細書第4頁第6行(公報第2頁第3欄第10行)の「長尺管」を「既設長尺管」に訂正する。

<9> 明細書第6頁第2行及び同頁第5行(公報第2頁第4欄第10行及び第13行)の「供給管」を「液状塗料供給管」に訂正する。

<10> 明細書第6頁第17行(公報第2頁第4欄第25行)の「であることが好ましい。」という記載を、「とすることにより旋回ガス流により生じる3方向の応力の内、軸線方向への応力を高めて、内面に付着した液状塗料を効率的に押し延ばすることができる。」に訂正する。

<11> 明細書第1頁第5行(公報第1頁第1欄第23行)の「(1)」と「管の」との間に、「移動不可能に埋設あるいは固定された」という記載を挿入する。

<12> 明細書第3頁第5行(公報第1頁第2欄第26行)の「生ぜしめる。」と「塗料は」との間に、「このとき、既設長尺管1内面には、この旋回ガス流により放射方向の応力、内周面の接線方向で回転方向に向う応力及び進行する軸線方向の応力が夫々作用している。」という記載を挿入する。

<13> 明細書第3頁第8行(公報第1頁第2欄第29行)の「である。」と「第2図」との間に「すなわち、液状塗料は旋回ガス流が有する放射方向への応力により既設長尺管1内面に吹付けられると共に、付着した液状塗料は接線方向への応力及び軸線方向への応力により内面の始端側から終端側へ押し延ばされる。これにより既設長尺管1内面に対し、始端側から終端側にわたってほぼ均一な厚さの塗膜を形成して塗装される。なお、この液状塗料としては、例えば水道管等のように無毒性が要求される既設長尺管の場合、2液硬化形のエポキシ樹脂塗料が適していることが周知である。また、この液状塗料としては、内面に付着したとき、旋回ガス流により接線方向及び軸線方向への応力にある程度対抗することができる程度の粘度を有していることが要求される。すなわち、液状塗料がある程度の粘度を有していない場合、内面に付着した液状塗料は上記接線方向及び軸線方向の応力により終端側へ押し流され、始端側と終端側とでは塗膜の厚さが不均一になるからである。」という記載を挿入する。

<14> 明細書第6頁第7行(公報第2頁第4欄第15行)の「られて」と「塗膜」との間に「上記作用と同様に」という記載を挿入する。

<15> 明細書第4頁第1行(公報第2頁第3欄第5行)の「噴霧状で」、同頁第20行~第5頁第1行(公報同頁第3欄第24行~第25行)の「、しかも好結果の得られる状態で」、同頁第15行(公報同頁第4欄第3行)の「やや、」、第6頁第13行~第14行(公報同頁同欄第21行~第22行)の「ガス供給用」をそれぞれ削除する。

(2)  請求人(原告ら)の主張

<1> 本件訂正は塗装素材である塗料の種類と塗装に利用されるその性質を変更し、さらに塗装手段とされる旋回ガス流の作用そのものを変更してしまったもので、特許法126条2項により禁止される、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当する。

<2> 塗料の供給及び塗膜形成に対するガス流の作用が完全に変更されている。

<3> 訂正<10>及び<13>を加えることにより、「吹付け」の語句を内容的にすり替えて本件訂正前の明細書(以下「原明細書」という。)記載の「噴霧塗装」を「押し延ばし塗装」として本件発明そのものを変更してしまったもので、特許法126条2項により禁止される、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当する。

<4> 特許請求の範囲の「塗料」を「液状塗料」に訂正し、明細書の詳細な説明の項に「2液硬化形のエポキシ樹脂塗料」を本件発明に加えることにより、特許請求の範囲を実質的に拡張したものである。

<5> 本件訂正は、原明細書の原型を留めない多量の訂正による内容のすり替えといわざるを得ず、実質変更に相当する。

<6> 本件発明の特徴は、「管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹き付けて塗膜を形成する点にあり、「管内に供給された塗料は、ガス流による霧吹き現象によって噴霧状となり、管内面に吹き付けられて塗膜を形成する」と理解されなければならず、また、甲第7号証(本件訴訟手続における甲第7号証と同じである。以下同じ。)には2液型のエポキシ塗料が噴霧塗装のための塗料であることが記載されており、当時「押し延ばし塗装」という技術思想が存在しなかったことが明らかであり、「押し延ばし塗装」は実質変更に相当する。

<7> 以下の訂正は、いずれも特許法126条1項に規定する「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明瞭でない記載の釈明」には該当しない。

(イ) 特許請求の範囲の「この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」は原明細書中に開示されていない。

(ロ) 特許請求の範囲の「既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装すること」は効果を記載したにすぎない。

(ハ) 訂正<5>の「この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹きつけ」

(ニ) 訂正<10>は、原明細書において示唆すらされていない事項であり、特に、「軸線方向への応力を高めて、内面に付着した液状塗料を効率的に押し延ばすことができる。」の記載部分は、本件発明の本来の技術思想から全くかけ離れたものとなっており、しかも、「内面に付着した液状塗料を効率的に押し延ばす」といった状況は、5000cps以上の高い粘度を前提とするものであって、少なくとも5kg/cm2程度の圧力が絶対に必要であり、1kg/cm2程度の圧力下においては、実施不可能な技術である。

(ホ) 訂正<12>、<13>、<14>は、いずれも前項と同様の理由で「明瞭でない記載の釈明」には該当しない。2液性型塗料の種類については勿論、2液の混合についての関係事項すら全く記載されておらず、実質的に特許請求の範囲を拡張したもので、特許法126条2項に違反するものである。

(ヘ) 訂正<15>のうち、「噴霧状で」を削除することは、塗料の状態に関し原明細書との関連性をも不明瞭なものとし、原明細書による塗装手段を根本的に変更するものである。

(3)  請求人の主張の検討

<1> 請求人の主張<1>について

原明細書第3頁第17行ないし第4頁第3行(公報第3欄第1ないし7行)「第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されているが、他の方法として、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させる」及び第1図からも明らかなように、塗料は管内にタレ流し状態で供給され、供給された塗料は旋回ガス流によって、管内面に吹きつけられている。

そして、塗料をタレ流し状態で管内に供給した場合、旋回ガス流によって塗料が直ちに管壁に吹きつけられることは、塗料とガス流の比重の差からみて、当然のことであり、次に、管壁に吹きつけられ留まった塗料には旋回ガス流による圧力が加えられるので、塗料が管内を押し延ばされて管内面を塗装することは、当然のことである。

原明細書には、塗料を噴霧状で供給することも記載されているが、これは、原明細書の前記記載からも明らかなように、塗料の供給をタレ流し状態で行なうか、あるいは、噴霧状で行なうかということであって、噴霧状で塗料を供給することが直ちに管内面を噴霧状で塗装することにはならない。

また、吹きつけられることが、噴霧状で塗装することのみを意味するものでもない。したがって、前記訂正は、請求人が主張するような霧吹き現象による噴霧塗装法ではないことを明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明に相当する。

一方、本件特許発明が液状塗料による塗装方法に関するものであることは、原明細書第3頁第18行ないし第19行(公報第3欄第2ないし3行)「いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されている」に記載されるようにタレ流しの状態で塗料を供給することからも明らかであり、この点を明瞭にするために塗料を液状塗料に訂正したものである。さらに、管内を塗装するための塗料としてエポキシ樹脂塗料を使用することが、本件特許出願当時において周知であることを考慮すると、本件特許発明において、特段の事情がない限り、使用される塗料に本件特許出願当時に周知であったエポキシ樹脂塗料が含まれることに何ら問題はない。

したがって、塗装材料と塗装方法に関する前記訂正は不明瞭な記載の釈明に相当するものである。そして、原明細書には、前記のようにエポキシ塗料を含む液状塗料が押し延ばされて管内面を塗装することが記載されているとみるのが妥当であるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。

<2> 同<2>について

<1>で述べたように、本件特許の原明細書には、液状で供給された塗料が旋回ガス流によって押し延ばされて管内面を塗装することが記載されているとみることが妥当であり、供給された液状の塗料が旋回ガス流によって管内を移動するとき、液状塗料に旋回ガス流による三方向の応力が加わることは技術常識であるから、塗料の供給及び塗膜形成に対するガス流の作用を変更するものではない。

<3> 同<3>について

<1>で述べたように、原明細書にはエポキシ樹脂を使用すること、あるいは、供給された塗料が押し延ばされて管内面を塗装することが記載されているとみることは妥当である以上、訂正<13>により押し延ばし塗装を明細書に訂正することは、塗料あるいは塗装方法を明確にするものであり、明瞭でない記載の釈明に相当する。また、<1>で述べたように、原明細書には旋回ガス流によって液状塗料が押し延ばされて管内面を塗装することが記載されているとみることが妥当であるので、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。

<4> 同<4>について

<1>で述べたように、管内を塗装する塗料として2液硬化形のエポキシ樹脂塗料を使用することは、本件特許出願当時において周知であり、本件特許発明において2液硬化形のエポキシ樹脂塗料を含む液状塗料に訂正することは、特許請求の範囲を拡張するものではなく、明瞭でない記載の釈明に相当するものである。また、<1>で述べたように、原明細書には旋回ガス流によって液状塗料が押し延ばされて管内面を塗装することが記載されているとみることが妥当であるので、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。

<5> 同<5>について

<1>ないし<4>で述べたように、原明細書には、供給された液状の塗料が旋回ガス流によって液状塗料が押し延ばされて塗装することが記載されているとみられる以上、たとえ、訂正される字句が多くても、ただそれだけの理由で内容のすり替えがあるということにはならない。

<6> 同<6>について

<1>で述べたように、原明細書には、タレ流し状態の塗料を旋回ガス流によって、管内面に吹きつけることが記載されており、タレ流し状態で供給された液状塗料が旋回ガス流によって噴霧状になって管内を塗装するという証拠もない。

むしろ、タレ流し状態で供給された液状塗料は<1>で述べたように旋回ガス流によって管内面に吹き付けられて押し延ばされていくとみるほうが妥当である。

甲第7号証には、2液硬化形エポキシ塗料を噴霧塗装することが記載されてはいるが、2液硬化形エポキシ塗料を本件特許発明のようにタレ流し状態で供給した場合、旋回ガス流によって噴霧状になるものとも認められないので、甲第7号証に噴霧塗装が記載されているという理由のみで、本件特許発明においても噴霧塗装によって塗装されていることにはならない。

したがって、実質上変更ではない。

<7> 同<7>について

(イ)及び(ハ)について

本件特許発明が旋回ガス流によって液状塗料を管内面に吹きつけ、押し延ばすことによって管内面を塗装することを明確にしたものであって、明瞭でない記載の釈明に相当するものである。

原明細書第6頁第6行ないし第7行(公報第4欄第14~15行)の「ガス流に乗って管1の内面に万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する。」の記載から明らかなように、塗膜の形成についての記載を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明に相当する。

(ロ)について

旋回ガス流が管1の内面に当たる角度を30度以下の角度にすれば、軸線方向の応力が高まることは当然であり、<1>で述べたように、原明細書には、液状塗料が押し延ばされて塗装することが記載されているとみるのが妥当であるので、訂正<10>は、本来の技術思想から全くかけ離れるものではなく、明瞭でない記載の釈明に相当する。

請求人は、本件特許が1kg/cm2という圧力条件下においては実施不能であると主張し、実験による検証を申請しているが、請求人が申請している実験による検証をたとえ行なったとしても、その実験条件は、1kg/cm2250cps~300cpsという粘性度についての条件に限られるものであり、全ての粘性度において本件特許発明が実施できないというものではないので、この実験結果のみによって、1kg/cm2という圧力条件下においては本件特許発明が実施不能ということにはならず、請求人が主張する検証の必要性を認めることはできない。

(ホ)について

訂正<12>及び<14>については、(イ)及び(ハ)について述べたとおりであって、明瞭でない記載の釈明に相当する。

訂正<13>については、本件特許発明が液状塗料による塗装方法に関するものであることは、<1>で述べたように原明細書の記載からも明らかであり、本件特許出願当時において、水道管の内面塗装に2液硬化形のエポキシ樹脂が普通に使用されていること及び2液硬化形のエポキシ樹脂塗料を使用する場合に2液を予め混合した後に供給することは周知である。そして、2液硬化形のエポキシ樹脂を訂正することは液体塗装であることを明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明に相当する。

したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(ヘ)について

<1>で述べたように原明細書には、塗料を噴霧状で供給することが記載されているにすぎない。

そして、本件特許発明において、「噴霧状」を削除することにより、本件特許発明が液状塗料を旋回ガス流によって塗装するものであることを明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明に相当する。

3  審決の理由の要点の認否

(1)(本件訂正の要旨)及び(2)(請求人の主張)は認め、(3)(請求人の主張の検討)は争う。

4  審決を取り消すべき事由

(1)  本件訂正<3>ないし<5>、<10>、<12>ないし<15>について

塗料材料及び塗装方法に関する本件訂正は不明瞭な記載の釈明に相当するとした審決の判断は誤りである。

本件訂正<3>ないし<5>、<10>、<12>ないし<15>は、「吹付け」の語句を内容的にすり替えて原明細書記載の「噴霧塗装」を「押し延ばし塗装」として、原明細書に記載のない「粘性度の高い塗料」、「塗料の押し延ばし」の概念を持ち込み、「粘性度の高い塗料を供給し、旋回ガス流によってこれを管内壁面に押し延ばして塗装する方法」として、塗装素材である塗料の種類と塗装に利用されるその性質を変更し、さらに、塗装手段とされる旋回ガス流の作用そのものを変更してしまったもので、特許法126条1項に該当せず、同2項の実質上特許請求の範囲を変更するものに該当する。

原明細書に記載された本件発明の特徴は、「管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内に吹き付けて塗膜を形成する」点にあり、この記載は、「管内に供給された塗料は、ガス流による霧吹き現象によって噴霧状となり、管内面に吹き付けられて塗膜を形成する」と理解されなければならない。すなわち、吹付けて塗装するという技術的手段を常識的に解釈すれば「塗料などを霧状にして付着させること」(甲第8、第10号証)であることが明らかであるから、原明細書に記載された「吹付け」とは、「塗料を霧状にして付着させること」を意味し、噴霧するためには塗装に用いられる塗料は粘性度の高いものであってはならないものである。

この理解を裏付けるものとして、原明細書の発明の詳細な説明の項の(イ)「塗料は支管2より下流側にある支管3から管1内に供給され、この旋回ガス流に乗って管1の内面に吹きつけられ、内面を塗装するのである。」(甲第2号証1頁2欄26行ないし29行)、(ロ)「ガス供給(噴射)時の吸引効果によって塗料も左方に吸引され、旋回ガス流に乗って管11の内面へ吹きつけられる。」(同号証1頁2欄35行ないし37行)、(ハ)「第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内に供給されているが、他の方法として、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させる。」(同号証2頁3欄1行ないし7行)、(ニ)「管1内には旋回ガス流が生じ供給管7内を流下する塗料はその先端部でガス流に乗って管1の内面に万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する」(同号証2頁4欄13行ないし15行)と枚挙に暇がない程記載されている。塗装手段についての原明細書の(イ)、(ロ)及び(ニ)の記載はいづれも霧吹き現象によって塗料を霧状にし、その霧状になった塗料がガス流に乗って吹き付けられて塗装することを技術的に明らかにしている。(ハ)の記載は、塗装直前における塗料の供給手段であり、ガス流による塗装手段ではない。したがって、塗料の供給が「タレ流し」の場合でも、タレ流しの状態で供給される塗料の側方からガス流が吹き付けられることにより、霧吹き現象で塗料が霧状になり、旋回ガス流に乗って吹き付けられて塗装がなされるから、塗装手段は噴霧状で吹き付けられることとなる。

原明細書の特許請求の範囲第4項の「30°以下の角度をなして当たる」との記載の30°以下の角度、例えば、10°前後の角度で管内面に当たるとすれば、塗料は供給された位置から遙かに遠い位置において管内面に吹き付けられることになり、噴霧状でなければ、ガス流に乗らないことは明らかである。

したがって、(ハ)の記載を根拠として、塗料をタレ流しの状態で管内に供給した場合、旋回ガス流によって塗料が直ちに管壁に吹き付けられることは、塗料とガス流の比重の差からみて当然のことであり、管壁に吹き付けられ溜まった塗料には旋回ガス流による圧力が加えられるので、塗料が管内を押し延ばされて管内面を塗装することは、当然であるとして、吹き付けて塗装することが、噴霧状で塗装することのみを意味するものでないとした審決の判断は誤りである。

被告は、塗料が「タレ流し」あるいは「噴霧状」で供給されると塗料が管の始端側内面への吹き付けにより溜まって流動状になり、旋回ガス流の作用により終側に向かって徐々に押し延ばして管内面を塗装すると主張するが、原明細書には、このような記載はない。それどころか、「塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する。」(2欄10行、11行)、「旋回ガス流に乗って管11の内面へ吹きつけられる。」(2欄36行、37行)、「旋回ガス流に乗せて管1の内面へ吹きつけて塗膜を形成させる。」(3欄5行ないし7行)と、噴霧塗装特有の「旋回ガス流に乗せて吹きつける。」塗装手段が記載され、「塗料が溜まる」「押し延ばす」との記載はない。

(2)  本件訂正<2>、<5>、<9>、<13>について

特許請求の範囲の「塗料」を「液状塗料」に訂正し、明細書の発明の詳細な説明の項に「2液硬化形のエポキシ樹脂塗料」を加えることは、実質上特許請求の範囲を拡張することになる。

すなわち、2液硬化形のエポキシ樹脂塗料は使用時に本剤と助剤とを混合するという特徴的な工程を必要とするものであって、原明細書にこの特徴的な工程が記載されていないということは、出願時にこの塗料を使用することは予定されていなかったものであるから、「塗料」として「2液硬化形のエポキシ樹脂塗料」は含まれていない。仮に、原明細書に記載された「塗料」に「2液硬化形のエポキシ樹脂塗料」が含まれるとしても、「塗料」は、噴霧塗装されるように、霧吹き現象で塗料が霧状にならなければならないところ、訂正後の本件発明においては、一定以上の粘性が必要不可欠である。しかるところ、甲第7号証には2液型のエポキシ塗料が噴霧塗装のための塗料であることが記載されており、当時「押し延ばし塗装」という技術思想が存在しなかったことが明らかであり、原明細書には、「塗料の粘性度」、「旋回ガス流についての応力記載」についての記載は全くないのであるから、仮に原明細書に記載された「塗料」に2液型のエポキシ塗料が含まれるとしても、その2液型のエポキシ塗料は、粘性の低い噴霧塗装のための塗料に限定されると解すべきである。したがって、原明細書の「塗料」を「押し延ばし塗装」のための一定以上の粘性を有する2液型のエポキシ塗料に訂正することは、特許請求の範囲を拡張するものであるから、かかる訂正を、明瞭でない記載の釈明に相当するとした審決の判断は誤りである。

甲第7号証は、作成日の記載はなく、本件発明の出願前の技術水準を立証することはできない。

(3)  本件訂正は、表題、図面の簡単な説明の項を除いて訂正対象となった原明細書の総文字数2343字に対して、436字が削除され、2328字が挿入されたうえ、62の単語が訂正されたもので、原明細書の原型を留めない多量の訂正による内容のすり替えといわざるを得ないので、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当するから、訂正される字句が多くても、ただそれだけの理由で内容のすり替えがあるとはいえないとした審決の判断は誤りである。

(4)  本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>ないし<15>について

(a) 本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>、<13>の判断において、審決は「応力」の基本的性格を誤認している。すなわち、「応力」とは、「外力を受けてつりあい状態にある物体中の内力」であり、「作用力に対しての反力」であるから、本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>、<13>に記載されているように、「応力によって塗料を押し延ばす」などということはあり得ず、旋回ガス流に応力が作用力として発生するということもあり得ない(甲第11号証)。

乙第4号証35頁の記載は、「粘性流体」すなわち本件発明における「液状塗料」に発生する「せん断応力」に関するもので、「旋回ガス流における応力」に関するものではない。なお、乙第4号証35頁の「せん断応力」に関する記載は、粘性流体の流れによるエネルギー損失に関するものであって、粘性流体に旋回ガス流が相当するとすれば、「せん断応力」は旋回ガス流の流れを抑止するだけで、管内に供給される液状塗料に「せん断応力」が作用力として働く余地はない。

(b) 本件訂正<3>の「この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」は原明細書中に開示されていない。また、「既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装すること」は効果を記載したにすぎない。

(c) 本件訂正<5>の「この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」の部分は、原明細書に記載されていない新たな事項である。

(d) 本件訂正<10>は、原明細書において示唆すらされていない事項であり、特に「軸線方向への応力を高めて、内面に付着した液状塗料を効率的に押し延ばすことができる。」の記載部分は、本件発明の本来の技術思想から全くかけ離れたものとなっており、実施不可能な技術である。すなわち、原明細書には「供給ガスはそれほど高圧である必要はなく、たとえば1kg/cm2程度の圧力であっても、きわめて短時間で長尺管の他端まで塗料を搬送して、管の全内面を塗装することができる(甲第2号証2頁3欄8行ないし11行)ときわめて低粘度の塗料を噴霧状態で供給するのでなければ成り立たない技術条件が明確に記載されている。「内面に付着した液状塗料を効率的に押し延ばす」といった状況は、5000cps以上の高い粘度を前提としたものであって、少なくとも5kg/cm2(甲第9号証16頁下から4行)程度の圧力が絶対に必要であり、1kg/cm2程度の圧力下においては、実施不可能である。

(e) 本件訂正<12>ないし<14>は、いずれも前項と同様の理由で「明瞭でない記載の釈明」には該当しない。2液型塗料の種類については勿論、2液の混合についての関係事項すら全く記載されておらず、実質的に特許請求の範囲を拡張したものである。

(f) 本件訂正<15>のうち、「噴霧状で」を削除することは、塗料の状態に関し原明細書との関連性をも不明瞭なものとし、原明細書による塗装手段を根本的に変更するものである。

以上のとおり、本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>ないし<15>は、いずれも特許法126条1項に規定する「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明瞭でない記載の釈明」には該当しない。

第3  請求の原因の認否及び被告の反論

1  請求の原因1及び2は認め、同4の主張は争う。審決の認定判断は正当である。

2  被告の反論

(1)  原告らの主張(1)について

原明細書に記載された本件発明は「管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめる」こと、「管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつける」こと及び「塗膜を形成する」ことを必須の構成要件としている。

そして、旋回ガス流が流れる管内に塗料が「タレ流し状」あるいは「噴霧状」で供給されると、この塗料は旋回ガス流の作用により、先ず管の始端側内面に一旦吹き付けられて溜まることになる。この現象は塗料が噴霧状で供給される場合であっても同様であり、噴霧状の塗料は、管の始端側内面への吹付けにより溜まって流動状になり、さらに、旋回ガス流の作用により終端側に向かって徐々に押し延ばされて管の内面全体に塗装される。

以上のとおり、原明細書に記載された本件発明の塗装方法は、原告らが主張するような管の内面全体にわたって塗料を噴霧状に吹き付けて塗装するものではない。したがって、原明細書には「噴霧塗装」しか記載されていないことを前提とする原告らの「粘性度の高い塗料」は原明細書に記載がないとの主張も理由がない。

甲第10号証は、「エアレススプレー塗り」が「エアレススプレーガン」を、「吹付け塗り」が「スプレーガン」を、それぞれ、使用する塗装方法であることを開示しているが、本件発明はこのような「エアレススプレーガン」あるいは「スプレーガン」のいずれをも使用しない塗装方法であるため、「吹きつける」ことが本件発明の構成要件であっても、ただちに「噴霧塗装」であることにはならない。

(2)  原告らの主張(2)について

本剤と助剤とからなり、使用する際にはこれら本剤と助剤とを混合する2液硬化形のエポキシ樹脂塗料は本件発明の出願前周知であったのであるから、このような周知の2液硬化形のエポキシ樹脂塗料を本件発明の液状塗料に含ませることは、特許請求の範囲を拡張するものではない。

原告らの、2液硬化形のエポキシ樹脂塗料が含まれるとしても、原明細書の「塗料」を「押し延ばし塗装」のための一定以上の粘性を有する2液型のエポキシ塗料に訂正することは、特許請求の範囲を拡張するものであるとの主張の理由のないことは、前記(1)から明らかである。

本件発明の「液状塗料」の一種として2液硬化形エポキシ樹脂塗料を使用することは甲第7号証から当然予定されていた。

なお、甲第7号証の作成日は記載されていないが、乙第5号証の1、2は、甲第7号証に記載された「SDCコート#402TF」に関して作成された昭和50年8月12日提出の報告書及び同年6月4日提出の成績書であるから、これらから、甲第7号証が本件発明の出願日前に作成されたことは明らかである。

(3)  原告らの主張(4)について

(a) 応力の意味について

旋回ガス流が各方向に対して力を有していることが自然法則上自明であるところ、本件発明は、旋回ガス流が有する各方向の「力」を示す用語として「応力」を使用し、特許請求の範囲に「放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力」と記載したものである。

乙第4号証の35頁、79頁の記載によれば、「応力」を「力」と解する場合もあるから、本件発明の特許請求の範囲に記載された「応力」を「内力」と解する必要はなく、単に「力」と解しても差し支えない。なお、35頁に記載された「粘性流体」には、空気も含まれるから、旋回ガス流も含まれ、旋回ガス流が液状塗料にせん断応力を作用させることが理解できるから、本件発明における「旋回ガス流における応力」を「旋回ガス流における力」と理解できる。

(b) 本件訂正<3>について

本件訂正<3>は、「旋回ガス流」を構成要件とする本件発明の塗装原理及び塗膜形成状態を明確にするものであり、不明瞭な記載の釈明に該当する。

本件訂正<5>について

(c) 本件訂正<5>は、本件発明の構成要件である「旋回ガス流」が自然法則上、有している「力」関係を明確にするものであり、自然法則上、自明な事項を追加するものであり、不明瞭な記載の釈明に該当する。

(d) 本件訂正<10>について

本件訂正<10>は、甲第2号証2頁20行ないし25行の記載に対応し、管内面に対する旋回ガス流の当たる角度を鋭角にしたことによる均一塗装の理由を明確にするものであり、不明瞭な記載の釈明に該当する。

(e) 本件訂正<12>ないし<14>について

本件訂正<12>ないし<14>は、「旋回ガス流」を構成要件とする本件発明の塗装原理を明確にするものであり、不明瞭な記載の釈明に該当する。

(f) 本件訂正<15>について

本件訂正<15>は、本件発明の塗装原理を「噴霧塗装」と誤解するのを回避するためであり、不明瞭な記載の釈明に該当する。

第4  証拠関係

証拠関係は記録中の証拠目録記載を引用する(乙第5号証の1、2を除いて、書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

(2)  審決の理由の要点のうち、(1)(本件訂正の要旨)は当事者間に争いがない。

2  取消事由の検討

(1)  本件訂正<3>ないし<5>、<10>、<12>ないし<15>について

原告らは、本件訂正<3>ないし<5>、<10>、<12>ないし<15>は、「吹付け」の語句を内容的にすり替えて原明細書の「噴霧塗装」を「押し延ばし塗装」として、原明細書に記載のない「粘性度の高い塗料」、「塗料の押し延ばし」の概念を持ち込み、「粘性度の高い塗料を供給し、旋回ガス流によってこれを管内壁面に押し延ばして塗装する方法」として、塗装素材である塗料の種類と塗装に利用されるその性質を変更し、さらに、塗装手段とされる旋回ガス流の作用そのものを変更してしまったもので、特許法126条1項に該当せず、同2項の実質上特許請求の範囲を変更するものに該当するものであると主張する。

甲第2号証(特公昭58-14826号公報、原明細書)の発明の詳細な説明の項の「第1図は本発明の方法の原理を示す図である。内面塗装すべき管1内に支管2からガスを供給し、管1内に旋回しつつ進行(図においては右から左へ)する旋回ガス流を生ぜしめる。塗料は支管2より下流側にある支管3から管1内に供給され、この旋回ガス流に乗って管1の内面に吹きつけられ、内面を塗装するのである。」(2欄23行ないし29行)、「また、第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されているが、他の方法として、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させる」(3欄1行ないし7行)との記載及び第1図(別紙図面参照)によれば、原明細書には、本件発明において、塗料を支管3から管1内に供給する方法としては、タレ流しの状態で行なうものと噴霧状で行なうものとがあることが記載されていると認められる。

しかして、原明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲の記載によると、本件発明は、「管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめる」(1欄23行ないし25行)とともに「管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する」(1欄25行、26行)ことを必須の構成要件とするところ、発明の詳細な説明の項の「第2図に本発明の方法の他の実施例を示す。内面塗装すべき管11内にガス供給管12を挿入して管11内にガスを供給し、第2図の右方から左方へ進行するガス流を生ぜしめる。管12の管11内へ挿入された部分の外周に套管13を設け、套管13内へ支管14から塗料を供給すると、ガス供給(噴射)時の吸引効果によって塗料も左方に吸引され、旋回ガス流に乗って管11の内面へ吹きつけられる。」(2欄29行ないし37行)、「第3図は、第1図に示す実施例の方法を好適に実施するための設備の1実施例の一部切欠側面」(3欄25行ないし27行)、「管1内には旋回ガス流が生じ供給管7内を流下する塗料はその先端部でガス流に乗って管1の内面を万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する。」(4欄12行ないし15行)との記載及び第2及び第3図(別紙図面参照)を参酌すると、原明細書には、管内に供給された塗料は旋回ガス流に乗って管の内面に付着させられて塗膜を形成すると記載されていると認められる。しかしながら、管内に供給された塗料が、旋回ガス流に乗ってどのような状態で管1の内面に吹き付けられて塗膜を形成するのかは原明細書には直接的には記載されていない。しかるところ、原明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明の項の「供給ガスはそれほど高圧である必要はなく、たとえば1kg/cm2程度の圧力であっても、きわめて短時間で長尺管の他端まで塗料を搬送して、管の全内面に塗装することができる。」(3欄8行ないし11行)との記載によれば、原明細書には、旋回ガス流の圧力について、それほど高圧である必要はないと記載されていると認められるが、供給される塗料の粘性度についても何ら限定する記載はない。したがって、タレ流しの状態で管内に供給された塗料の粘性がある程度高く旋回ガス流がそれほど高圧でない場合には、塗料は噴霧状にはならずタレ流しの状態のまま旋回ガス流に乗って管の内面に付着させられるものと解される。そして、次に、管壁に付着させられ留まった塗料には旋回ガス流による圧力が加えられるので、塗料が管内を押し延ばされて塗膜が形成されて管内面を塗装することは、当然のことである。なんとなれば、後記(4)(b)のとおり、旋回ガス流が物体に働く力として、放射方向の力、軸線方向の力、軸線回りの力を有することは自然法則上明らかであり、技術常識であるところ、旋回ガス流が流れる管内にタレ流しの状態で塗料が供給されると、この塗料は旋回ガス流の力特に放射方向の力により、まず管の始端側内面に一旦吹き付けられて溜まり、次いで、軸線方向及び軸線回りの各力により、管の終端側に向かって徐々に押し延ばされて塗膜が形成されることになるからである。また、塗料が噴霧状で供給されるとまず管の始端側内面への吹き付けによって溜まって流動状になることは明らかであるから、この理は塗料が噴霧状で供給されても同様に解される。

以上のとおり、原明細書には、「旋回ガス流によって供給された塗料を管内壁面に押し延ばして塗装する方法」について記載されているものと認められるから、原告らの上記主張は理由がない。

なお、原告らは、原明細書の特許請求の範囲の「管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内に吹きつけて塗膜を形成する」との記載は、「管内に供給された塗料は、ガス流による霧吹き現象によって噴霧状となり、管内面に吹き付けられて塗膜を形成する」と理解されなければならず、原明細書に記載された「吹付け」とは、「塗料を霧状にして付着させること」を意味し、噴霧するためには塗装に用いられる塗料は粘性度の高いものであってはならないと主張するが、原明細書の特許請求の範囲の記載自体からは原告ら主張のように解すことはできず、また、前記のとおり、原明細書の発明の詳細な説明の項の記載及び図面を参酌しても、特許請求の範囲の上記記載を「管内に供給された塗料は、ガス流による霧吹き現象によって噴霧状となり、管内面に吹き付けられて塗膜を形成する」と解することはできないことは明らかである。また、甲第8号証(広辞苑第2版)、同第10号証(JISハンドブック塗料1981)によっても、「吹き付けて塗装する」という用語を原告ら主張のように解することが常識的であるとは認められない。

また、原告らは、タレ流しの状態で供給された場合であっても、塗料は霧吹き現象によって、霧状になり、旋回ガス流に乗って吹き付けられると主張する。しかしながら、前記のとおり、原明細書には旋回ガス流の圧力について、それほど高圧である必要はないと記載され、また、供給される塗料の粘性度を低いものに限定する記載はないのであるから、原明細書において、塗料は霧吹き現象によって霧状になり管内面に吹き付けられ塗膜が形成されることが記載されていると解することはできない。

さらに、原告らは、原明細書の特許請求の範囲第4項の「30°以下の角度をなして当たる」との記載の30°以下の角度、例えば、10°前後の角度で管内面に当たるとすれば、塗料は供給された位置から遙かに遠い位置において管内面に吹き付けられることになり、噴霧状でなければ、ガス流に乗らないことは明らかであると主張するが、上記記載は、旋回ガス流が管の内面に当たる角度を規定したものであって、旋回ガス流が管の始端から管の全長にわたって一定の同じ角度で管内面に当たることを規定したものと解されるから、塗料が管の始端側に吹き付けられることは明らかであり、塗料は供給された位置から遙かに遠い位置において管内面に吹き付けられるとの原告らの主張はそもそも上記記載の解釈を誤ったものであって、失当である。

(2)  本件訂正<2>、<5>、<9>、<13>について

原告らは、特許請求の範囲の「塗料」を「液状塗料」に訂正し、明細書の発明の詳細な説明の項に「2液硬化形のエポキシ樹脂塗料」を加えることは、実質上特許請求の範囲を拡張することになると主張する。

原明細書の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の項には、「塗料」を特に限定する記載はない。しかも、原明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明の項の「いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されている」(3欄2行ないし3行)との記載によれば、「塗料」には液状塗料が含まれることは明らかである。また、甲第7号証(SDCコート#402TF JWWA K115説明書 大日本塗料株式会社技術第一部作成)及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第5号証の1(試験結果報告書 財団法人日本塗料検査協会 昭和50年8月12日作成)、同号証の2(試験検査成績書 社団法人東京都食品衛生協会 昭和50年6月4日作成)によれば、本件発明の特許出願(昭和53年3月29日)前、管内面の塗装に2液硬化形のエポキシ樹脂塗料を用いることは周知であったと認められる。しかして、原明細書に2液型硬化型のエポキシ樹脂塗料が特に排除されることを示唆する記載はない。したがって、原明細書記載の本件発明である「管の内面塗装方法」において、使用される塗料に本件発明の特許出願当時に周知であった2液型硬化型のエポキシ樹脂塗料を含ませることは、特許請求の範囲を何ら実質上拡張することにはならないというべきである。

したがって、原告らの上記主張は理由がない。

原告らは、2液硬化形のエポキシ樹脂塗料は使用時に本剤と助剤とを混合するという特徴的な工程を必要とするものであって、原明細書にこの特徴的な工程が記載されていないということは、出願時にこの塗料を使用することは予定されていなかったものであるから、「塗料」として「2液硬化形のエポキシ樹脂塗料」は含まれていないと主張する。

しかしながら、前記のとおり、2液硬化形のエポキシ樹脂塗料は本件発明の特許出願前周知であったのであり、混合工程が原明細書に記載されていなくとも、当業者にとってそのような混合工程は技術常識であると解されるから、原告らの上記主張は採用できない。

原告らは、さらに、仮に原明細書に記載された「塗料」に2液型のエポキシ塗料が含まれるとしても、原明細書に記載された「塗料」は、噴霧塗装されるように、霧吹き現象で塗料が霧状にならなければならず、また、前記甲第7号証には2液型のエポキシ塗料が噴霧塗装のための塗料であることが記載されており、当時「押し延ばし塗装」という技術思想が存在しなかったことが明らかであり、原明細書には、「塗料の粘性度」、「旋回ガス流についての応力記載」についての記載は全くないのであるから、その2液型のエポキシ塗料は、粘性の低い噴霧塗装のための塗料に限定されると解すべきであると主張する。

しかしながら、前記(1)のとおり、原明細書には「押し延ばし塗装」が記載されており、前記甲第7号証は、エポキシ樹脂塗料において、スプレー以外の方法による塗装を排除するものとは解されないから、原告らの上記主張は採用できない。

(3)  原告らは、本件訂正は、表題、図面の簡単な説明の項を除いて訂正対象となった原明細書の総文字数2343字に対して、436字が削除され、2328字が挿入されたうえ、62の単語が訂正されたもので、原明細書の原型を留めない多量の訂正による内容のすり替えといわざるを得ず、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当すると主張するが、訂正される字句が多くても、ただそれだけの理由で内容のすり替えがあるとはいえないことは明らかであるから、原告らの上記主張は理由がない。

(4)  本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>ないし<15>について

(a)  原告らは、「応力」とは「外力を受けてつりあい状態にある物体中の内力」であり「応力によって塗料を押し延ばす」などということはあり得ず、本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>、<13>に記載されているように、旋回ガス流に応力が作用力として発生するということもあり得ないと主張する。

甲第11号証(世界大百科事典4 平凡社 1972年4月25日初版発行)によれば、「応力」とは外力を受けてつりあい状態にある物体中の内力をいうと解される。しかるところ、本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>、<13>において、「応力」の用語を上記のような意味に解すると、旋回ガス流の放射方向、軸線回り及び軸線方向のそれぞれの「応力」によって塗料を押し延ばすということはあり得ないことになる。

しかしながら、原明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の項の旋回ガス流の作用についての記載及び本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>、<13>における「応力」の用語が用いられている箇所の記載を対比総合すれば、「応力」の用語は上記のような「内力」の意味に用いられているものではなく、「外力」の意味に用いられていることは、当業者であれば明確に理解できるものと認められる。審決も本件訂正<3>、<5>、<10>、<12>、<13>における「応力」の用語が「外力」の意味に用いられていると理解していることは明らかである。

したがって、原告らの上記主張は理由がない。

(b)  原告らは、本件訂正<3>の「この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」は原明細書中に開示されておらず、また、「既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装すること」は効果を記載したにすぎないと主張する。

しかしながら、乙第2号証(「渦学」株式会社山海堂昭和56年7月15日初版発行)の「また速度ベクトルVの半径分速度(radial velocity)をVr、周分速度(tangential velocity)をVθ、軸分速度(axial velocity)をVzとすると、速度ベクトルを表す式は次のようになる」(43頁下から4行ないし2行)との記載によれば、旋回ガス流が半径分速度、周分速度、軸分速度の各速度成分を有していることは自然法則上明らかであると認められるところ、旋回ガス流における半径分速度、周分速度、軸分速度は、それぞれ、放射方向の速度成分、軸線回りの速度成分及び軸線方向の速度成分と同義であるから、旋回ガス流が物体に働く力として、上記各速度成分に基づく、放射方向の力、軸線回りの力及び軸線方向の力を有することは明らかであり、当業者にとって自明というべきものである。

また、本件訂正<3>の「既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装すること」の部分は、塗膜の形成についての記載を明確にしたものと解され、効果の記載と同じであっても効果を記載したにすぎないということはできない。

以上によれば、本件訂正<3>の「旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け、既設長尺管内面をほぼ均一な塗膜厚さにて塗装することを特徴とする既設長尺管の内面塗装方法」との記載は、原明細書の特許請求の範囲の「旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する管の内面塗装方法」という記載を明確にしたものと解される(なお、「管」を「既設長尺管」と訂正する本件訂正<1>については原告らは争っていない。また、「応力」は「外力」の意味であると解されることは前記(a)のとおりである。)。

したがって、原告らの上記主張は理由がない。

(c)  原告らは、本件訂正<5>の「この旋回ガス流における放射方向の応力、軸線回りの応力及び軸線方向の応力により既設長尺管内面へ吹付け」の部分は、原明細書に記載されていない新たな事項であると主張する。しかしながら、前記(b)のとおり、上記部分は、旋回ガス流が物体に働く力として、上記各速度成分に基づく、放射方向の力、軸線回りの力及び軸線方向の力を有するという当業者にとって自明な事項を明確にしたものにすぎないから、原告らの上記主張は理由がない。

(d)  原告らは、本件訂正<10>は、原明細書において示唆すらされていない事項であり、特に「軸線方向への応力を高めて、内面に付着した液状塗料を効率的に押し延ばすことができる。」の記載部分は、本件発明の本来の技術思想から全くかけ離れたものとなっていると主張するが、前記(1)のとおり、原明細書において液状塗料を押し延ばして塗装することが記載されているのであり、また、前記(b)のとおり、旋回ガス流が物体に働く力として、上記各速度成分に基づく、放射方向の力、軸線回りの力及び軸線方向の力を有するものであって、旋回ガス流が管1の内面に当たる角度を小さくすれば、軸線方向の力が高まることは明らかであるから、本件訂正<10>は、原明細書の「管1の内面にできるだけ均一に塗膜を形成させるには、ガス供給用支管2の先端部にある短曲管5、6の曲率および開口角度の調整により旋回ガス流が管1の内面に当たる角度を調整すればよいがその角度が鋭角、とくに30°以下の角度であることが好ましい。」(甲第2号証2頁4欄20行ないし25行)の記載に対応して、管内面に対する旋回ガス流の当たる角度を鋭角にしたことによる均一塗装の理由を明確にするものであり、原明細書において記載されている事項を明確にするものであるから、原告らの上記主張は失当である。

次に、原告らは、「内面に付着した液状塗料を効率的に押し延ばす」といった状況は、5000cps以上の高い粘度を前提としたものであって、少なくとも5kg/cm2(甲第9号証16頁下から4行)程度の圧力が絶対に必要であり、1kg/cm2程度の圧力下においては、実施不可能であると主張するが、原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はなく、採用することはできない。

(e)  原告らの本件訂正<12>ないし<14>は実質的に特許請求の範囲を拡張したものであるとの主張が理由がないことは、前記のとおり明らかである。

(f)  原告らの、本件訂正<15>のうち、「噴霧状で」を削除することは、塗料の状態に関し原明細書との関連性をも不明瞭なものとし、原明細書による塗装手段を根本的に変更するものであるとの主張は、原明細書による塗装手段が噴霧状に限定されることを前提とするものであるところ、このような前提が誤りであることは、前記(1)のとおりであるから原告らの上記主張は採用できない。

(5)  以上によれば、原告らの主張はいずれも理由がなく、審決の本件訂正についての認定判断は正当であって、他に取り消すべき違法はない。

3  以上のとおり、原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、同法93条1項本文を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面

<省略>

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